A day in the their's Life
Part.5 "One Day"

ぱたむ さま




 雨の休日。折角だから普段は手が回らないような場所の掃除をしようと忙しく立ち働くマルコを尻目に、バトーはリビングの窓辺に座り込んでぼんやりと外を眺めていた。
 二人ともなるだけ休みが重なるようにしてはいるが、それでも揃って休みを取れることは少ない。きっちり出かける予定も立てていたことだし外出しても良かったのだが、久しぶりに景気良く降る雨に何となく億劫になってしまい、今に至る。
「珍しいもん吸ってんな」
 一息入れようとリビングに入ってきたマルコは煙草を探したが、目の届く位置に愛用のものが見当たらなかった。代わりに目に入ってきたのが、このダビドフのシガリロ。紫煙を一つ吐き出すと、バトーが声をかけてきた。
「客に変わったばぁさんが居てな。安っぽいもん吸うんじゃねぇとさ」
「あ?何でお前が貰ってんだ?」
 お前んとこ、そんなに人手が足りねぇのかよ?と怪訝な顔をして訊き返してくる。
「だから言っただろ、変わったばぁさんだって」
 きっちり和服を着込んできて、大概VIP席で一人飲んでいるのだが、マルコを見つけると『話をしていけ』と呼び止める。そう答えるマルコに、バトーは手を伸ばしてくる。箱ごと放ってやろうとしたら、違うと顔を顰めた。吸い止し、といっても殆ど火をつけたばかりのそれを渡してやる。満足そうな顔。
「…悪かねぇけど」
 バトーはゆっくり一口吸っただけで、シガリロをマルコに戻した。
「安モンが性に合ってる」
 そう言ってマルコに両切りのピースを放って寄越す。マルコは同感だと言う代わりに、少し笑って見せた。
「なぁ、まだ終わらねぇのか?」
 暇だ、と仰向けに転がったバトーは小さく伸びをした。
「映画でも見てりゃいいだろ」
「見飽きた」
「じゃ、手伝え」
「論外」
 マルコはため息をつく。要するにバトーは『暇だから遊べ』と言っているのだろう。こっちはまだ仕事が片付いていないというのに。マルコはシガリロを灰皿に預け、後頭を掻きながらバトーに近づいて座り込んだ。そのバトーは、マルコが何をするのかと微動だにせず待ち構えている。マルコの両手がゆっくりとバトーに伸ばされる。
「掃除でも洗濯でもちったぁ手伝えば、遊んでやる暇も出来るんだ、よっ」
 マルコの両手はバトーの頬をむにっと掴むと、たてたてよこよこまるかいてちょん、と引っ張った。
「馬鹿!!ホストは顔が売りモンなんだからな!」
 両頬を押さえて痛い痛いと騒ぐバトーに、マルコはただ冷たい視線を返した。
「お前、顔で売ってたのか?」
「トーゼン」
「言ってろ」
 今度は鼻を摘んでやってから立ち上がった。構っていたらきりが無い。日が暮れる。
「他の奴んとこに遊びに行ってやる」
 同居人の暴力に耐え切れないとか何とかぶちぶち煩く言うバトーに、わざと優しい笑みを向けてから一言言い放つ。
「あぁ、好きなだけ行って来いよ」
 さらにもう一言。
「…そのかわり、今みたいな可愛いお仕置きじゃ済まないからな」
 途端にバトーは大人しくなったが、今度は不貞腐れて横を向いてしまった。まさか、店でもこんなガキみたいなことしてるんじゃないだろうなとたまに不安になる。からかわれても上手くかわせる方じゃない。いいおもちゃにされてるんだろうな。これで新人の教育係とか言ってるけど…大丈夫なのか?
「この洗濯終わったら遊んでやるから、もう少し待ってろよ」
 機嫌をとってやって、遊んでやって、ほんとに手間のかかる同居人だ。だからといって、他の誰に世話をさせるつもりも無いけれど。
「誰かさんの所為で毎日洗濯物が多いんだ…」
「誰の所為だって、誰の!?」
 手間のかかる分、充分楽しませてもらってるから一つも苦にはならない。からかって遊ぶ特権は誰にも譲れない。