The Room of Debauch





『私の部屋にすぐ来てちょうだい』
 出勤してすぐの草薙の呼び出しにトグサがおそるおそる出向くと、何故かそこにはパズもいた。
「…プレゼントですか?」
 パズの座るソファの向かい側には赤いリボンを掛けられた大きな薄い箱や、やはり綺麗に包装された大小さまざまな包みが並べられており、草薙のデスクの上には化粧品各種が広げられている。
「これは貴方のよ、トグサ」
 一抹の悪い予感がトグサの脳裏をよぎった時、草薙がとんでもないことをさらりと告げた。
「俺にですか…何ですか、これ!」
 パズが差し出した薄い箱を開けたトグサは、その中身を見て硬直した。
 薄紙に包まれて箱の中に入っていたのは、透ける薄い素材を重ねた赤いドレスで。
「これ、俺に着ろって言うんですか!」
 草薙の、そして先日パズがこなしたミッションを思い出して青ざめながらトグサが叫ぶ。
「大丈夫、これで仕事をしろって言う訳じゃないから」
 良くわからない事を草薙が言った。
「この前のミッションの成功報酬が、お前なんだ」
「はあ?」
 パズのダメ押しにトグサはいよいよ自分が窮地に立たされた事を悟った。
「あの…俺書類溜めてますんで後で……じゃあ、始めるわね」
 そっと後ずさりして逃げようとしたトグサが固まった。ぎこちなくその場で何度か足踏みした後、身体をほぐすように軽く伸びをしたトグサがにっこりと笑った。
 トグサのゴースト侵入鍵を悪用した草薙の仕業である。
「まずは着替え?」
「そうだな」
 煙草に火をつけたパズを一瞥して、草薙は無造作に服を脱いでいく。普段のトグサの恥じらい振りを知っている人間が見れば驚くような大胆さで、トグサの身体は裸になった。
「何よ、ショーツないじゃない」
 裸のままがさごそとあたりを探していた草薙が、呆れたように言った。姿と声はトグサのものなのに、飛び出す言葉は普段の草薙の口調なだけにその破壊力は凄まじいものがある。さすがのパズもやっとのことで込み上げる笑いを堪えた。
「…どうせすぐ脱がすから、用意しなかった」
「いい趣味してるわねぇ。まあ、いいけど」
 どこか他人事と言った口調で、草薙が返す。
「じゃあ、直接ガーターベルトつけていいのね?」
「ああ、それで頼む」
「貴方の時も思ったんだけど、こんなサイズのランジェリーなんて良く見つけてきたわね」
 豪奢なレースをあしらったガーターベルトをつけながら、草薙がしみじみと言った。細身とはいえトグサも男である。普通の女物ではサイズは合わない。今草薙が着けているものは、パズが伝手を辿って色街で仕入れてきたものだった。
「まあ、蛇の道は蛇ってところだな」
「なるほど…背中上げてくれる?」
「ああ」
 ドレスと同じ色のストッキングを履き、ガーターで止めた草薙は、次にドレスに無造作に足を入れて袖を通してくるりと振り向いた。
 パズがトグサに用意した服は背中に長いファスナーがつけてあるワンピースで、ひとりで着るのは難しいデザインになっていた。
「このドレス、サイズぴったりだけどオーダーはどうしたの?」
 興味深々と言った顔で、草薙が尋ねた。
「俺のを仕立てる時に、一緒に頼んだんだが…そんなにおかしいか?」
 草薙が声を上げて笑い出すに至って、パズは憮然と呟いた。
「貴方に赤は似合わないわよ」
「…わかってる」
 草薙に言われるまでもなく、旧知の仕立屋にもそれは指摘されていた。
 トグサのイメージに合わせて、明るめの赤と優しげなデザインのドレスは、サイズがほぼ同じであるにも関わらずパズには悲しいほど似合わない。仮縫いのたびにそれを思い知らされていた。
「メイクは?」
「どうせ流れるから、口紅だけでいい」
「オーケー」
 ドレスの裾をふわりと翻し、草薙本体が座るデスクの前に立った草薙は、机の上から一本の口紅を手に取ると不要だったファンデーションのケースの中の鏡を見ながら丁寧に色を載せた。
「プレゼントなら、こんなのどう?」
 草薙はドレスの箱に結んであった赤いリボンを手に取ると、適当な長さにカットし両耳の上の髪をひと房ずつまとめて結い上げた。
「これで完成かしら?」
 ドレスと同じ色の長い手袋を着け、仕上げに華奢なピンヒールを履いて肩に純白の毛皮のコートを掛けた草薙がくるりとターンして仕上がりをパズに見せてくれる。それはまさしくパズがイメージした通りだった。
「ああ。それでいい」
「じゃあ、コントロール返すわよ。準備はいい?」
 スーツのポケットから電脳錠を取り出しながら、パズはトグサの身体に近づいた。
「いつでも」
「オーケー、行くわよ………うわっ…っ!」
 草薙の支配が解けた瞬間、慣れないヒールにバランスを崩したトグサの身体を抱きとめ。項のプラグに電脳錠を押し付ける。何が起こったかすらわからずに人形と化したトグサがパズの腕の中に崩れ落ちた。
「ご協力感謝します、少佐」
「このぐらい何でもないけど…くれぐれもトグサを壊さないで頂戴よ。バトーにも良く言っておいて」
「わかった」
 そう言って笑う草薙に一礼すると、パズはトグサを抱えて外へと出た。


「説明しろ!」
 トグサは怒っていた。
 草薙に無理やり体の自由を奪われたかと思うと、電脳錠で眠らされたのは一時間前のこと。今、トグサは全く違うところに居た。
 前にも来たことのあるバトーのセーフハウスの、広いベッドの上に座らされて、バトーとパズに逃げられないように覗き込まれているのに気付いた時は、恥ずかしさといたたまれなさで逃げ出したくなった。
「…説明って言ったって、見てのとおりだよな」
 トグサの剣幕に、ビールの缶を手にしたバトーが困ったように笑った。
「三人で楽しむのは、初めてか?」
 煙草に火を付けながら言ったパズの台詞に、トグサの顔が赤くなった。図星らしい。
「俺はこんなの嫌だからな…っ!」
 トグサの隙を衝いて口移しでバトーに何かを飲まされて、トグサが目を丸くする。
 アルコールと共に飲まされたのは小さな錠剤で、歯を食いしばって拒もうとする前にさらりと溶けてトグサの体内へと吸収されてしまった。
「旦那、何を…?」
「聞き分けの良くなるおクスリってやつだ…どうだ、身体が熱くなって来ないか?」
 そう言われてみれば、鼓動が早くなったような気がした。ただでさえ尋常ではない状況にあてられて興奮気味のところに妖しげなクスリである。くらりと視界が歪んで回るのを、トグサは感じた。
「はっ……あっ……」
 身体にまとわりつく布の感覚が気持ち悪い。敏感なところに直に触れる感触に、トグサは無意識のうちに両足をもじもじと摺り合わせた。
「…今だけ、全部忘れちまえよ。可愛がってやるから」
 赤く染まった耳朶をパズに甘噛みされて、抵抗空しくトグサは堕ちた。
 バトーとパズ、タイプは違えど凄腕の二人がかりで誘惑されたら、うぶなトグサに勝ち目などあるはずもない。


「…このままするのか……?」
 ベッドの上に胡坐をかいて座ったバトーに羽交い絞めにされるようにして身体を預けたトグサの足元に、パズが膝をついた。
 繊細なカーヴを描く靴を履いたままの爪先を押し頂くように抱え込むと、丁寧に靴を脱がせてストッキングに包まれた足にキスをする。
 ゆっくりとパズの唇が上がってくることに気付いたトグサが身をよじるが、バトーの拘束は緩まない。
「脱がせろよ、これ!」
「あとでな」
 宥めるような口付けを、トグサの耳元に落としながらバトーが囁くが、トグサの抵抗は止まらない。
「…パズ、先に入れてもいいか? ちょっと大人しくさせるから」
「ああ」
 言うが早いか、軽々と腰を持ち上げられて圧倒的な質量を持ったものが入ってくる。
「うわっ…!」
 電脳錠を付けられている間に準備されていたのか、トグサの意思を裏切る身体はバトーをあっさりと受け入れ、さらには自重で深々と銜え込む。
「そんなに締め付けるなって」
 バトーが軽く腰を動かすと、悲鳴とも嬌声ともつなかい声がトグサの唇から漏れる。
「バトー、ちょっとこれ持っててくれ」
「了解」
 パズの指示で、スカートを持ち上げるとすっかり立ち上がって震えるトグサ自身があらわになる。
「あっ…はぁっ……」
 パズに舌と唇で責められて、トグサの身体から完全に力が抜けた。バトーの肩に頭を擦り付けるようにして悶えるトグサは前と後ろを同時に嬲られて、理性を手放すのも時間の問題だった。
「離して…おかしくなる……」
 上気した頬に涙を伝わせて、トグサが懸命に訴える。
「いいよ、おかしくなっちまえ。誰も気にしない」
 後から後から伝い落ちる涙をキスで拭って、バトーが囁いた。


 トグサが目覚めた時、すでに辺りは明るくなっていた。
(えっと、昨夜は…)
 途切れがちの記憶を拾って、トグサは自分が晒した痴態を思い出して青ざめた。
「トグサ」
 ノックの音と共にドアが開いてバトーが姿を見せたが、トグサはあまりの恥ずかしさにシーツを被ってしまった。
「どうした、ご機嫌斜めか? 風呂の準備したんだが、どうする?」
 ある程度は後始末をしてもらってあるらしいが、それでも全身がべたついているような気がして、トグサはおずおずと被ったシーツの間から、顔を出した。
「下ろせよ、ひとりで歩ける…っ!」
 バトーに抱き上げられて暴れようとしたトグサは、腰に感じる違和感に言葉を失った。
「辛いだろ? 黙って抱かれてろ」
 トグサの状態を察したらしいバトーが、にやりと笑ってバスルームへと足を進めた。
「中、洗ってやるからちょっと我慢しろよ?」
 バトーに抱えられたまま一緒に湯船に入って、向かい合わせに座らせられた。
 昨夜散々酷使させられた場所に指を入れられて、トグサは思わずバトーにしがみついた。痛みを感じるわけではなかったが、昨夜あれだけ愛されたのにこの上また欲しがるように疼く自分の身体が恥ずかしい。
「旦那、酷いよ…ヘンなクスリまで使って。中毒になったらどうしてくれるんだ」
 恨みがましく見つめると、バトーは声を上げて笑い出した。
「昨夜のアレ、義体用のサプリメントだぜ? そりゃ生身のお前には美味くない代物かもしれないが、そんなヤバイもんじゃねえよ」
「騙したのかっ!」
 掴みかかろうとした手首を逆に掴まれて、抱き寄せられる。
「昨夜のお前、すげえ色っぽかったな。たまにはああいうのも刺激的だろ?」
「…俺の心臓に悪いし……サイトーに申し訳ない」
 パズのパートナーである寡黙なスナイパーを思い出して、トグサはぽつりと呟いた。
「あいつもお前のことは知ってるさ。ばれてねえ訳ねえだろ?」
「…ちょっと待って。ばれてるのか、これ」
 恐ろしい事実を突きつけられて、トグサが震えながら尋ねた。
「ん〜…まあ、だいだいな」
「これからどんな顔して出勤すればいいんだ…」
 消え入りそうな声で呟くトグサに、実は課長を除いた9課メンバーのほとんどが、トグサの置かれた状況をきわめて正確かつ詳細に把握しているとは、さすがにバトーは言えなかったが。
「普通の顔でいいさ。誰も気にしない」
「俺が気にするんだ…んっ!」
 バトーが顔を赤くして怒鳴るトグサをキスで黙らせた。







■作者言い訳

 
   バトグサでパズサイで×××な話です。ええ、やらかしてしまいました。この二人が相手だったら、トグサの勝ち目は全くなさげですよねw
 トグサのドレスについては深く書けなかったのですが、ひらひらでふわふわ、古い魔法少女もののアニメのステージ衣装(オリジナルよりも、スカート丈は長いですけど)をイメージにしてみたり。
 しかし、パズとトグサってほとんど体格一緒ってのが怖いというか面白いというか(苦笑)。

 タイトルは某二人組ユニットの古い曲から。ふつうに聞いてた時もエロい内容の曲だと思ってたんですが、この話を思いついたときタイトルはこれしかないだろうなとw

 web再録にあたり、発表当時時間切れで端折ったエロシーンを加筆しようと思ったんですが…結局ほぼオリジナルの状態でアップしてます(矛盾してたとこはさすがに直しましたけど)
 濃厚エッチシーンは各自妄想していただけるとありがたいです。