Half awake




Side:P “anxiety dream”

 遮光カーテンの隙間から注ぐ日の光で、パズは目を覚ました。
(あ・・)
 頬に触れる滑らかな感触に、また自分がサイトーの胸を枕に眠っていたことに気づいた。規則正しい鼓動を聞くのが心地良くて、頭を預けたまま眠ってしまったらしい。
 狙撃手という職業柄かそれともサイトー個人の気質ゆえか、サイトーはどこか人に慣れない野生の獣のように他人を寄せ付けない所がある。ストイックかと思えば意外にも享楽主義者だったサイトーをこういう関係に持ち込むのはそれ程難しい事ではなかったが、パズの部屋に泊まっていくようになるまでには随分と時間が掛かった。  
 毎日のように職場で会うのにどうしてこんなにサイトーに固執するのか。それをたっぷり時間を掛けて考えたパズは、自分がサイトーに本気になっているという事をやっと自覚した。
 
 穏やかな寝息を立てるサイトーは良く眠っているらしい。ここしばらくまともな休日が取れていなかった事を考えれば無理もないだろう。
 深い眠りを邪魔したくなくて、パズはもう一度目を閉じた。
 もし今、時間が止まってすべてがこのままになってしまったなら、こうしてずっとサイトーの胸に抱かれていられるのに…と、パズは時々思う。
 惚れた欲目かもしれないが、パズの目に映るサイトーはとても魅力的で時々落ち着かなくなる。
 昔馴染みだというバトーと話していたり、同じ生身とあってかやたらと懐いているトグサの愚痴を聞いてやっていたり、はたまたサイトーが少佐を見つめる視線に気づいたりすると、たまらなく不安になる。
 まだ何ひとつ確かな事をサイトーに告げていないくせに、嫉妬するのはお門違いもいいところなのだろうが、サイトーのことになるといつものクールな振りはできなくなる。
 ただの遊び、そう割り切るにはもう自分を誤魔化せない。そう分かっているのにどうしても真面目に向き合うことを避けてしまうのは、大切な存在を作ることが怖いのかもしれないが。
(…もう少しだけ、このままで)
 たとえサイトーがどんな夢を見ていたとしても、今は自分の腕の中に居る。サイトーの温もりは、パズにとって何より確かなものだから。
 パズはサイトーを抱く腕にほんの少し力を込めた。





Side:S “pipe dream”

『じゃあな』
 鍵を置いたパズが、何事もなかったかのように立ち上がった。
 止めなければと思うのに、パズを引き留める言葉をサイトーは持たない。
 捨てるな、行くなと縋るには、この男との仲は稀薄過ぎて。睦言ひとつ交わすことのなかった自分たちは、恋人と言っていいのかも怪しい。
 身体だけの関係だったと思いたくないのは、自分だけでパズは違うのかもしれない。そう思うとサイトーは余計辛かった。
『…パズ』
『何だ?』
 ありったけの勇気を振り絞って呼び止めると、パズが振り向いた。
 ちらりと自分を見たパズの目は、まるで見知らぬ他人を見るような冷たいもので、もう何もかもが終わったのだとサイトーは悟った。
『パズ!』
 もう一度その名を呼んだところで、サイトーは悲しい夢から醒めた。

(あ・・・)
 あまりにリアルな夢だったせいか、息苦しくてサイトーはしばらく荒い呼吸を繰り返した。それでもまだ胸が苦しい気がして見回すと、自分の胸にべったりと頭を載せてパズが熟睡していることに気が付いた。
(…人の気も知らないで)
 安心しきった子供のようなその寝顔を見て、サイトーは少し泣きたくなった。
 初めて会ったときから、パズのことが気になっていた。てっきり女専門だと思っていたパズが自分に興味を持っていると知ったときはどれだけ嬉しかったことか。
(お前を信じていいのか?)
 同じ女と二度寝ないと公言している男が一体自分と幾度寝たのかはもう数え切れない。それだけパズにとって自分が特別なのだと信じていいのかサイトーは迷う。
 始まりがあれば必ず終わりは来る。それこそ、さっきの夢のように。
 それは避けようのない真理なのだろうが、一日でも遅ければいいとサイトーは願う。
「ん・・・」
 さらりと額に掛かる洗い髪を梳いてやると、パズがくすぐったそうに身動ぎした。
 こんなに無防備な姿を間近で見られる幸せを噛み締めながら、サイトーはもう一度目を閉じる。
今度はいい夢を見られそうな気がした。









・作者言い訳・

 

 この話は、「ELASTIC PLASTIC」の川上ちけさんのイラストが元ネタだったりします。
 イラスト拝見したころから、書きたい書きたいと思ってたのですが…こんな大遅刻になってしまいまして(汗)。
 らぶい二人のイラストから、どうしてこんな話になるのかという感じなのですが。

 ちなみにイメージソングがパズ編・サイトー編ともにありまして、
 パズ編はB'zの「憂いのジプシー」、サイトー編が鈴木聖美の「シンデレラ・リバティ」だったりします。
 どっちも古い曲なので、皆様ご存知かなあ(汗)。

 この話は、素敵なイラストの生みの親・ちけさんに捧げます。