Pillow talk






「今日、ヒマだぜ」
 長い逡巡の末にそう告げると、にやりとバトーの口元が弛むのが何とも癪に障る。
 だが、『抱いてくれ、お前とやりたい』とねだるのに等しいのだからバトーの反応も仕方ないのかもしれない。
(明日休みだろ? 今夜は寝かせねえから覚悟しとけよ)
 露骨な返事を耳元で囁いたバトーに中指を立てて見せると、トグサは片付けなければならない書類の山に意識を戻した。

「…ちょっ! シャワーぐらい使わせろよ……っ……」
 すでに何度か来ているバトーのセーフハウスの玄関を入った瞬間、バトーに背中から抱きすくめられて悲鳴を上げる羽目になった。
「いらねえよ、んなもん…いい反応するようになったじゃねえか、トグサ」
 トグサのうなじに軽く歯を立てながら、バトーが哂った。
 異性とのセックスしか知らなかったトグサに、男に抱かれる悦びを教え込んだのは他でもないバトーで。だが、最初にバトーを拒めなかったトグサにも非はあるのかもしれないが。
「…な、ベッド…行こうぜ」
 スーツを剥がされ、タイを解かれ、バトーの腕に縋りついたトグサがきれぎれに訴える。衣服の乱れと比例するように意識も飛びそうになっているのは、トグサの身体を隅々まで知っているバトーの仕掛ける悪戯のせいで。
「いいぜ、たっぷり可愛がってやるよ」
 猫でも抱えるように軽々とトグサを抱き上げて、バトーは寝室へと歩き出した。

 広いベッドに仰向けに寝かされると、トグサの動きを封じるかのように覆いかぶさったバトーがはだけたシャツの隙間に口付けの雨を降らせた。
「やっ…もっと……」
 バトーの巧みな愛撫に、ゆっくりとトグサの理性が痺れ始める。
「もっと…何だ?」
「…舐めて……んっ」
「ここ、好きだな」
 トグサのねだるものは惜しまず与えてくれるバトーだったが、今日に限っては意地悪く焦らしてばかりで一向に解放してくれない。
「だぁめ」
 絶頂寸前ではぐらかされる辛さに、自身に伸ばした手をバトーに掴まれた。
「ダンナ…もう……っ」
「いいぜ、来いよ」
 ごろりと寝転がったバトーが、トグサの手を引いた。
「え・・・」
 バトーが何をさせたがっているか気づいてトグサの頬が熱くなる。普段なら拒否するところなのだが、抗議するにはもう切羽詰ったところまで来ているし今夜はバトーの望みを聞いてやりたい事情もある。
「どうした、トグサ?」
 にやにや笑うバトーをひと睨みすると、中途半端に乱されたボトムから足を抜いてトグサはゆっくりと身体を起こした。
「んっ…」
 大きく足を開いてバトーの腰を跨ぐと、後手に準備万端になっているバトー自身の位置を確かめながらトグサはゆっくりと腰を沈めていく。
「今日は随分素直じゃねえか?」
「だって…あっ……」
 弱いところを抉られて、トグサの唇はもう言葉が紡げない。
「まあ、あとでゆっくり聞かせてもらうさ」
 不敵な笑みを浮かべたバトーが、震えるトグサの腰を掴んで突き上げた。

 ひとしきり遊んだあとキッチンから水を取ってきたバトーが、身体を起こす気力もないトグサに飲ませてくれた。
「…さあて、聞かせてもらおうか?」
 散々泣かされて喘がされて、目は腫れぼったいし喉の調子も良くない。何より深刻なのは溶けてしまったかのように感覚がなくなっている腰だろう。
「あんたが義体化したの、今日だったって聞いた」 
「あ?」
 自分用の缶ビールを飲んでいたバトーが、トグサの呟きに振り向いた。
「新しい身体もらった日って、誕生日みたいなもんだろう? だから…って、ダンナ?!」
 いきなりバトーに抱きすくめられて、トグサが慌てた。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか、え?」
 ぐりぐりと頭を撫で回されて、バトーがまんざらでないことを悟ったトグサの頬が弛む。
「誕生日おめでとう、旦那」
 バトーの返礼は、優しい優しい口付けだった。










・作者言い訳・

  「Yシャツ萌え」「バトグサ」「誕生日」の三題噺でこうなりました(笑)。
 バトさんの誕生日、ちょっと反則技で申し訳ありません。でも生まれた日はナイショな気がするのでw
(ぜーんぶばればれっぽいトグからすれば、ちょっと不公平な話かもですが)

 タイトルはありがちですが、いちゃいちゃしてるんでいいだろうかなと。
 文章はわりとさくさく出たのに、非常に難産でした<タイトル

 この話は5月27日にお誕生日を迎えられた某Kさんに捧げます。