―――1,5巻2話―――
石田博士の護衛を終えたトグサに、イシカワはにやりと笑みを向けた。
「『支給火器は空チェンバー』だぞ?」
なにを言われているかわかって、トグサはぐっと言葉を飲み込む。
「あんた、見てたのか」
「当り前だろう。全員の状況を見る奴がいるといないとでは、チームの動きが変わる」
その言葉を聞いて、トグサの傍らに立っていたバトーがむっと唇を曲げる。
「それは俺に対する嫌味か?」
「なにを言ってるんだ。お前はもうトグサを指導する立場でもないだろうが」
「いや、あるかもしれない」
イシカワの言葉を受けて、トグサが笑う。
「9課ができてから1年たった頃だよな。俺とバトーのコンビ解消したの」
「アズマも来たしな。いつまでも一緒にやらせるわけにいかない」
ふたりに指示を与えた張本人が片目を瞑った。バトーは首を振る。
「それでも新人だったトグサにさらに新人を任せるなんて、あんたの気がおかしくなったかと思ったぜ」
イシカワは声を出して笑う。
「俺には俺のやり方がある」
言って、イシカワはトグサを引き寄せ、茶色の髪を撫で回した。
「空チェンバーを忘れるような奴には、しっかりやってもらわなきゃならねえ」
「おい」
「なあトグサ。俺のやり方も守ってるか?」
目を覗き込まれて、トグサは曖昧に笑む。イシカワは軽く首を曲げた。
「さてはバトーのやり方を優先しているな?」
言葉のないトグサの肩をバトーが引き寄せ、後ろから強く抱き締めた。
イシカワを睨み、バトーは静かに言う。
「当然だろうが。馬鹿言ってんじゃねえ」
イシカワは肩をすくめる。
バトーの腕の中から抜け出せないトグサは、ひとり、困惑の表情を浮かべていた。
攻殻コンテンツ開始一周年のお祝いに、「夜嵐」のこよりさまから頂いたお話です。
「バトグサ前提で、バトーの目の前でわざとトグサにちょっかいを出すイシカワ」という私のリクエストで書いて頂きました。
『これは俺の』と顔に書いてありそうなバトさんが素敵ですvv
タイトルは『困った奴だ』という意味の英文です。
三人それぞれがお互いをそう思ってそう…と作者さまに好評でした。
(web辞書で見つけたのは、私なのです)
素敵なお話をありがとうございました!