パズが共有室で煙草をくゆらしていると、サイトーがやって来た。
「……休憩中?」
パズはこくりとうなずき、背中を埋めていたソファから身を起こす。サイトーは手にしていた白い箱をテーブルにそっと置いた。
パズの視線に気付いたか、サイトーが笑う。
「これ? 安売りしてたから、買ってきた」
「どこで」
「駅。切り分けてあるから、一緒にくわねぇ?」
パズは冷静さを保持する。目の前の箱は、どこからどう見ても、洋菓子屋のケーキの箱だ。
それを差し出されて、嫌がるはずがない。
しかし、見栄からか、パズの眉間に皺が浮かぶ。サイトーはそれを見てしまった、という顔をした。
「嫌いか?」
「いや、付き合おう」
「無理しなくても」
「ものによっては、嫌いじゃない」
サイトーは首をかしげながら箱を開く。パズは箱の中を覗き込んで、笑んだ。
「アップルパイなら好物だ」
「じゃ、コーヒー持って来る」
言って、サイトーは共有室を飛び出す。パズは煙草の火を消した。
アップルパイのフィリングの林檎の甘みとやわらかさはもちろん、シナモンとバター、それに隠し味のレモンのかすかな香り。パイ本体の濃厚なバターと、表面に塗ってあるアプリコットジャム。
それら全てを味わうためには、煙草の煙は邪魔でしかない。パズは空調を目盛りを強にした。
すぐにサイトーが戻ってくる。両手にコーヒーとフォークを持っている。
「少佐がいないうちに楽しもうぜ」
無邪気に言うサイトーは妙に子供臭い。
しかしパズはそれをすこしだけ羨んだ。
コーヒーとフォークを受け取り、ケーキを渡され、パズはほのかに笑む。サイトーも笑う。
「無理に付き合うのかと思ったけど、ほんとに好きなんだ」
「アップルパイなら、な」
サイトーは嘘に気付かない。コーヒーのカップを手に、軽く捧げ持つ。
パズは付き合って、カップの縁を軽く合わせた。すぐにコーヒーを口にする。
甘い。
パズはわずかにサイトーを盗み見る。なにも気付いてないようだが、気付いたなにかを隠しているようにも見える。
パズはすぐにその考えを追い出し、はやる気持ちを押さえながら、アップルパイに、フォークを突き立てた。
誕生日のお祝いに、「夜嵐」のこよりさまから頂きました。
「実は甘党なパズ」をお題におねだりしたのですが、
想像以上に素敵なお話に仕立てて下さって、平伏しております。
個人的にアップルパイには思い入れがあるので、とても嬉しかったり。
(子供の頃、親戚の伯父さん夫婦の手土産が不○家のアップルパイだったり
紀○国屋のアップルパイだったんですよ。大好物でしたv)
甘党なパズって、何かデジャブを感じるなと思ったら
「西洋骨董洋菓子店」に登場する甘党のおじさまだったり。
パズも美味しいケーキに出会ったら、思わずにまっと笑ったりするのかもですねw
こよりさま、美味しいお話をありがとうございました!