タチコマたちの賑やかな声は、ハンガーに近づくにつれて大きくなっていった。
「…お前ら、何やってるんだ?」
ハンガーに踏み込んだバトーの声に、タチコマたちが一層騒がしくなる。
(ん?)
群れる連中の足元に見慣れた色の髪が見えた気がして、バトーは首を傾げた。
「お前ら、そこに何隠してる?」
バトーが一歩踏み出すと、モーゼの十戒よろしく道ができた。
「…一体こいつに何やった。言ってみろ」
「バトーさん、ごめんなさぁい!」
バトーは冷静に言ったつもりなのだが、どうやら顔に出ていたらしい。タチコマたちが次々と騒ぎだした。
「生身の身体ってどうなってるか知りたくて、トグサくんにちょっときょーりょくしてもらったんです〜」
タチコマたちの弁解を聞き流しながら、バトーは足元に転がるトグサの様子を調べる。
「トグサ、生きてるか?」
かがみ込んで尋ねてみたが、返事は返ってこない。身体を丸めて床の上でのたうつトグサはそれどころではないらしい。
「こいつに流しこんだものは?」
明らかに様子がおかしいものの、それでも呼吸は正常に行われていることを真っ先に確認したバトーが詰問した。
ほんの十数分前まではトグサの様子は何ともなかったことから考えて、タチコマたちに性質の悪いドラッグかウィルスの類を流し込まれたと考えるのが妥当だろう。
「はいはいっ!」
慌ててタチコマが差し出したディスクを無言で受け取ると、バトーはトグサの身体を担ぎ上げた。
「トグサくん、連れて行っちゃうんですかあ?」
「当たり前だ」
見るからにバッドトリップを起こしかけているトグサを、このままハンガーの床に転がしておく訳にはいかない。
「お前らがしでかしたことについては、あとでみっちり絞ってやるからここで大人しくしてろよ」
「りょ、りょ〜かい…」
バトーの宣告に、タチコマたちは渋々と言った様子でそれぞれのスペースへと戻っていった。
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