Good-bye holy days (4)




「…俺は待機室にいるから、何かあったら呼べよ」
 このまま自分がここに居ては、都合が悪いだろうとバトーは腰を上げた。これ以上トグサの傍にいたら理性がどうにかなってしまいそうで怖かった。
「行く…なよ……」
 起き上がろうとしてバランスを崩したトグサを、バトーは反射的に抱きとめていた。
「トグサ?」
「ここにいて…くれよ」
 バトーにすがりついたトグサが繰り返す。
「…わかったから、離してくれ」
「やだ……」  子供がだだをこねるように、トグサが訴えた。
「もう、置いてかれるのは…嫌だ……」
「お前……」
 おそらく、トグサが言っているのは9課壊滅作戦の時のことだろう。連行されてからの3か月半、蚊帳の外だったトグサの気持ちはわからなくもないが、それにしてもこの取り乱しようはおかしい。
(まさかな……)
 ある可能性に思い当たったバトーはジャケットのポケットからコードを取り出すと、自分とトグサのインターフェースを繋いだ。
「見るな…よっ」
 有線で電脳の中を覗かれるのを嫌がって身体を捩るトグサを抱きすくめて、バトーはトグサの身体の状況をチェックする。
(・・・やっぱり)
 バトーの目的は、トグサの心の中ではなく身体のほうだった。脈拍、心拍数から始めて身体の状況を確認したバトーは、覚えのある感覚を読み取って小さくため息をついた。
「自分の身体、何が起こってるかわからなくて怖いか?」
 耳元でささやいてやると、トグサが身体を硬くした。図星らしい。
 もっとも、今まで感じたことのない種類の感覚をいきなり理解しろと言っても、身体も頭も受け入れられないだろう。ましてや、本人が望んだものではないのである。トグサの混乱振りもわかるというものだ。
 バトーにしがみついたトグサの身体は見た目は全くの平静だが、内部でじわじわと変調が起こっていた。消えない炎のように体内でくすぶり続ける快感は、まっとうな男なら一生感じることのない種類のもので。
(…えらいもの、作りやがって)
『お堅い女を娼婦のようにする』という『クラッシャー』の噂を聞いた時、バトーは眉唾物だと思ったのだが…こうして、目の当たりにすると信じざるを得ない。今、トグサの中で起こっている変化は、まさしくそれだった。


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