「…なんとかしてくれよ、だん…な」
すがりつく腕をほどかなくてはと思うのに、身体は言うことを聞かない。
「お前、自分が何言ってるかわかってるのか?」
自分自身にも言い聞かせるように、バトーが尋ねた。トグサは大事な仲間で、相棒で。
抱いてやることは確かに簡単だが、一時の感情に流されてこの関係を壊したくはなかった。
「わかってるよ」
「いいや、わかってねぇ」
トグサが自分をどう思っているか気づかない程鈍くはないつもりだった。だからこそ、流されるわけにはいかなかった。
今、トグサに手を出してしまったら、取り返しのつかないことになる。それは予感と言うよりも確信に近かった。
「俺に家庭があって…あんたに少佐がいて・・・わかってるけど、どうにもできないんだ」
バトーの胸に収まったトグサが、苦しそうに訴える。
「ヘンだろ? 俺もあんたも男なのに」
トグサにここまで言わせてしまったことを、バトーは悔やんだ。
「いいや」
バトーは、震える肩をそっと抱き締めた。
「・・・俺が悪かった」
薬にあてられているとは言え、トグサは嘘をついてはいない。ならば、程度の差はあれどこれはトグサの本心だろう。
「最後まで付き合ってやるよ」
耳元に囁いてやると、バトーはそっと額に口づけた。
『・・イシカワ』
『そこのモニターは切ったし、お前らのログも取ってねえ』
電通を飛ばすと、即座に答えが帰ってきた。
『トグサを壊すんじゃねえぞ』
『努力する』
短く答えると、バトーは交信を切った。
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