「念のために聞いとくが…男は初めてか?」
「当たり前…だ」
あんたじゃあるまいし、と腕の中から小さく声がした。
(まったくこいつは…)
トグサが警察出身であることに、バトーは心底感謝した。もし軍になど入った日には入隊してすぐ、良からぬ連中に目をつけられたことだろう。そういう人間を引き寄せてしまいそうな色気を、トグサは持っている。
ただ少しは危ない目に合って。身の危険を感じとれるようになって欲しいとバトーは思った。こういう成り行きのせいもあるだろうが、自分の腕の中にすっぽりと収まる形になっているトグサには、警戒心のかけらもない。もっとも、自分がこれから何をされるのか、わかっていないからかもしれないが。
ひとつため息をつくと、バトーは首のコードを外した。そのまま身体を離そうとすると、トグサが嫌がってしがみつく。
「逃げねえよ」
宥めるように軽く頭を撫でてやると、トグサが泣きそうな顔で見上げる。
「服着たままじゃ、何もできねえだろ?」
上着に手を掛けて見せると、トグサの表情が緩んだ。
巻きついていた腕が解けたのを了解と取ったバトーは、一度トグサをベッドの上に座らせると床に下りて入口の鍵を確認した。イシカワはダイブルームのはずだし誰かに覗かれる心配はないとは思ったが、念のためだった。
そのまま室内を物色して目当てのものを見つけると、バトーは無造作に服を脱いでベッドに戻った。
「…やってやるって」
ベッドの上で悪戦苦闘するトグサを見て、バトーは笑った。
感じすぎて手が震えるのか、上着を脱いだ状態で固まっているトグサからタートルを剥がし、抱き上げてパンツと下着を引き下ろすとそのまま床に落として、手早く準備を済ませる。
「だんな、ひんやりする・・」
ベッドに座ってトグサを横抱きにして膝の上に載せると、人工皮膚の感触が火照った肌に心地良く感じるのかトグサがうっとりと目を閉じる。
「熱上がったか?」
「わかんない・・んっ」
再びインターフェースにコードをさされてトグサが唸る。すでに吐息も艶めいている。
「…これ、外せよぉ」
「我慢しろ」
いつもより舌足らずな声のトグサの訴えを、バトーは聞き入れなかった。
もう一度コードを繋いだのは保険の為だった。万一トグサの容体が急変するようなら、迷わず医務室に運ぼうと決めていた。
完全義体のバトーと生身のトグサでは、心肺機能に限界がある分トグサの方が圧倒的に不利なのだから。
ベッドサイドのスイッチをひねって室内の照明を少し落とすと、バトーはトグサの電脳から身体情報を読み込んだ。
(脈拍良し…心拍数ちょっと早いか……まぁ、大丈夫だろう)
とりあえず、今のところ問題はないらしい。もっとも、脳内麻薬が回りきった状態を異常なしと言っていいものかは別問題だが。
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